光学フィルターは、映像機器において、画像の明るさの調整や、画質のコントラストの改善、全般的な光学系において、特定波長の透過や反射、また一つの光を2つ以上の独立した波長に分割するといった用途で使われます。アプリケーションに合わせて様々なフィルターが用意されており、フィルターを理解するため、必要となる用語などを以下に説明いたします。

1,光学フィルター用語集

・バンドパスフィルター

バンドパスフィルターは、特定の波長帯のみを透過する光学フィルターです。バンドパスフィルターで重要な要素として、中心波長とバンド幅があります。以下にそれぞれを説明します。

・中心波長(CWL)

 透過波長帯域の中心の数値。下に説明するバンド幅の中央値とする事が多い。CWL:Center Wavelength

・バンド幅(FWHM)

 透過する波長帯域で、最大透過率の50%の値となる短波長側と長波長側を取った際、その波長間の波長幅。FWHM:full width at half maximum

・阻止領域

 阻止(ブロッキング)領域は、フィルターが 透過を遮断する波長領域をさします。遮断する透過率の度合いは、透過率で1%以下など、透過率で規定されたり、後述するOD値(光学濃度)で規定されます。光学フィルターを検討するうえで重要な指標の一つです。

・透過領域

 阻止領域とは逆で、フィルターが光を遮断しない波長領域です。透過率の度合いで、80%以上のように規定されます。

中心波長など

 製品紹介:バンドパスフィルター 

 製品紹介:マルチバンドパス

・スロープ

 スロープは、エッジフィルター(透過帯と反射帯を持ち、比較的狭い波長幅で切り替わるフィルター)や、バンドパスフィルターで定義される仕様です。阻止領域から透過領域への移行に要する波長のバンド幅を表します。スロープの大きさを定義する透過率は自由です。ただし、一般的には、10% の透過点から80% の透過点に至るまでのバンド幅で規格化する事が多いです。

スロープ

・OD値(光学濃度)

 OD値(光学濃度)は、透過を阻止するエネルギー量を表します。OD値が大きいと透過率は低くなり、小さい場合は透過率が高くなります。OD値が6.0 以上になると、極めて高い遮断性能が求められるラマン分光や励起蛍光用フィルターに用いられます。3.0 – 4.0 のOD値は、マシンビジョン、化学物質検出用のフィルターで使用されます。OD値が2.0以下のフィルターは、色の選別や映像機器用途で使われます。

 製品紹介:NDフィルター

・カットオン波長

 カットオン波長は、ロングパスフィルターにおいて、透過率が50%に上がる波長を示します。カットオン波長 をλcut-onとも表記します。

カットオン波長

 製品紹介:ロングパスフィルター

・カットオフ波長

 カットオフ波長は、ショートパスフィルターにおいて、透過率が50%に下がる波長を示します。カットオフ波長 をλcut-offとも表記します。

カットオフ波長

 製品紹介:ショートパスフィルター

2,光学フィルターの種類

・吸収タイプと非吸収タイプ

 光学フィルタは大きく吸収タイプと非吸収タイプ(干渉タイプ)に分けられます。

・吸収タイプ

 入射光の一部の光を吸収して遮断する事を徳亮とし、特定の光のみを透過させます。不必要な光がノイズになりにくいのが徳亮で、入射角を干渉タイプほど気にしなくてもよいフィルターです。また、比較的安価な事もメリットの一つです。一方で、選択する波長帯の境界は急峻ではなく、選択性がやや劣るという点がデメリットになります。

 製品紹介:NDフィルター

・非吸収(干渉)タイプ

 主に酸化金属膜の多層構造により、光の屈折を利用してフィルターの特性を出す事を特徴としています。吸収型と異なり入射角依存性が強く、設計入射角で使用しないとスペック通りの機能を出すことができません。分光特性の自由度が高く、スロープ部などを急峻にする事が可能です。

 製品紹介:レーザーミラー

・ダイクロイックフィルター

 基板、主にガラス材や高透過樹脂材に誘電体薄膜を積層し、光の干渉を利用して特定帯域を透過・反射するフィルタです。R・G・Bの分光や合成に適しています。特定の波長帯のみ透過し、それ以外の波長帯を反射するフィルターの総称になります。
用途:CCDイメージング、プロジェクタ、赤外線センサ、ToFセンサなど様々です。

 製品紹介:ダイクロイックフィルター

・NDフィルター

 NDはNeutral Densityの略で、特定の波長帯域で一定の光量を吸収により落とすフィルタです。OD値で性能が評価され、ODが高いと透過率が低く、ODが低いと透過率は高くなります。
用途:監視カメラ、ビデオカメラ

 製品紹介:NDフィルター

・IRカットフィルター

 IRカットフィルタは、可視光を透過して赤外線(IR:Infrared)を阻止する光学フィルタです。映像・画像の赤みを抑制する目的や、太陽光の熱線カットに使用します。
用途:プロジェクタ、モバイルカメラ、監視カメラ

 製品紹介:IRカットフィルター

・バンドパスフィルター

 バンドパスフィルタは特定の波長帯のみを透過し、透過波長帯の両サイド(短波長側、長波長側)を阻止する光学フィルタを指します。
用途:分析機器、医療、天文、光通信、レーザー、照明

 製品紹介:バンドパスフィルター 

 製品紹介:マルチバンドパス

・ノッチフィルター

 特定の波長帯域を阻止して、それ以外の波長帯域を透過するフィルタです。バンドパスフィルタの逆の特性を持つフィルタです。バンドストップフィルタとも呼ばれます。
用途:レーザー励起、蛍光測定、バイオメディカル、ラマン分光用フィルター

 製品紹介:ノッチフィルター

・励起蛍光用フィルター

 励起蛍光観察は、蛍光色素で染めた試料にに励起光を当てた際、発する蛍光を観察するものです。その際に使用するのが、励起蛍光用フィルターになります。

蛍光フィルター:試料から発せられる蛍光を透過させ、それ以外の光を阻止するフィルターで、励起光に対する蛍光の強度は非常に小さい為、蛍光を観察する際、不必要な励起光の波長帯は高いOD値で阻止する必要があります。

励起フィルター:蛍光物質の励起に必要な波長を透過させ、蛍光波長帯は阻止するフィルターです。蛍光フィルターとは逆に、蛍光波長帯は高いOD値で阻止していなければ、蛍光を観察した際に、元の光源からの光か、蛍光によるものかを判別できなるなります。

 製品紹介:蛍光分析用フィルター 

 製品紹介:蛍光分析用ダイクロイックフィルター

・(最新)SWIR用フィルター

 SWIR光は日本語では短波赤外光といい、通常0.9~1.7μm波長域の光として定義されます。シリコンセンサーの感度の上限値は約1.0μmであるため、SWIRイメージングには特定のSWIR領域において能力のでるセンサーが必要でした。しかし、近年、可視光領域とSWIR領域の双方の感度をもつ新SWIRセンサーが開発されており、使用範囲に合わせて、光学フィルターが必要になります。その際、センサー感度が広い分、通常のフィルターと比較し、阻止帯域を広くカスタマイズされたフィルターが必要になります。新SWIRセンサーに特化したフィルターを総称してSWIR用フィルターとしています。

 製品紹介:SWIR用フィルター

・(最新)ラマン分析機用フィルター

 ラマン分光装置とは、試料から散乱されるラマン散乱光を検出することで、試料の分子構造同定や物性を評価する装置です。ラマン分光装置は励起光源、レイリー散乱光を除去するフィルター、ラマン散乱光をスペクトルに分解する分光器、検出器で構成されます。

ラマン散乱光の強度は微弱なため、十分なラマン散乱光を発生させる強い光度と、波長再現性、単一性が必要になり、近年はレーザーが使われる事が一般的です。 その時に使用するラマン散乱光検出用のフィルターは、強いレーザー光に光を阻止すると同時に、レーザー波長近傍にあるラマン散乱光波長は透過させなければなりません。そのため、ラマン分析用フィルターは非常に急峻なスロープ特性が必要とされます。

・(最新)LIDAR用フィルター

 LiDARは「Light Detection And Ranging」の略です(日本語では「光の検出と測距」)。
LiDARは、ToFやコヒーレンスなどの分析手法により、視野範囲内の物体の位置を正確に測定する技術です。
その際、周囲からの光(自然光や照明など)や迷光は信号取得の課題になるため、LiDAR波長と他の光とを切り分ける光学フィルターが必要になります。
LiDAR用フィルターの特長は下記になります。
・測定波長に対するバンドパスフィルターもしくは透過フィルタである事。
・高い透過率が必要になる事。
・入射角依存性が小さいフィルターである事。
・阻止域のOD値が高い事
・環境性能(温度、湿度等)が良い事。

 製品紹介:低角度依存バンドパスフィルター

3,光学フィルターの作成方法による違い

 

・ソフトコーティング

 ソフトコーティングは、硫化亜鉛や銀といった物質を薄膜として積層して作ります。従来からあるソフトコート膜の場合、コート面を保護する為に、ソフトコート膜をラミネートします。多くの場合は、ガラス層に積層したソフトコート膜の上に保護用のガラスを接着させます。理由としては、使用する材料と製造工程により、ソフトコーティングは耐久性(特に水分に対して)、が高くない為です。

蒸着装置の稼働コストの低さ、プロダクトタイムが短い事、安価なフロートガラス基板の使用などによって、コストを低減できますが、シーリング加工やリング (金枠)の組み付けといった、作業工程費用は高くなります。コストと生産数量の関係は、少量だと高額になり、ある一定の数量を超えた後から安定します。

ソフトコーティング

 製品紹介:干渉フィルター

・ハードコーディング

 ハードコート膜は、誘電体(主に酸化金属)物質を加熱やイオンプレーティングなど、膜質を向上させる為のアシストを付加し積層する成膜方法です。ソフトコーティングと比較すると、膜質が均一で充填密度が高く、耐環境性能に優れています。更に、ハードコーティングの波長に対する透過特性は、ソフトコーティングの透過特性比べてよりより高い事が一般的です。

例としてバンドパスフィルターを比較すると、ソフトコーティングが透過率が低く、スロープがなだらかであるのに対し、ハードコーティングはスロープが急峻で、透過率が高く、より安定した光学フィルターとなっています。

・蒸着方式

 真空にしたチャンバーの中で、蒸着材料を加熱し、気化(もしくは昇華)させます。真空チャンバー内で、蒸着材料から、離れた位置に置かれた基板の表面に、気化させた蒸着材料を付着させ薄膜を形成する方法を蒸着といいます。

蒸着材料、基板の種類により、物質の加熱方法は、抵抗加熱、電子ビーム、高周波誘導、レーザーなどがあります。蒸着材料は、アルミニウム、クロム、亜鉛、金、銀、プラチナ、ニッケルなどの金属類とSiO2、TiO2、ZrO2、MgF2などの酸化物やフッ化物があります。

・スパッタリング方式

 スパッタリングは、Ar+(アルゴンイオン)のような陽イオンが高速でターゲット(主に金属プレート)に衝突したとき、ターゲットを構成している粒子が放出される「現象」の事です。スパッタリング方式はこの現象を利用し、ターゲットの粒子を堆積させ薄膜形成に応用したものです。

スパッタリング方式は蒸着方式と比較し、時間当たりに堆積させる事ができる量が均一で、膜厚制御性能に優れています。また、ターゲットの大きさとチャンバーの大きさ次第で大きな基板への薄膜生成も可能となります。

4,波長による違い

・可視光領域

 可視光は、太陽やそのほか様々な照明から発せられます。通常は、色々な波長の可視光線が混ざった状態であり、光は白に近い色に見えます。波長では、大まかに、380nm~780nm程度と言われています。光学アプリケーションも他の波長帯と比べ最もおおく、スマートフォン、プロジェクタ等の映像機器から、顕微鏡、測定機等の分析機器、近年LEDに代表される照明機器等、多種多用途な製品群があります。その多くで光学フィルターが使用されており、用途により様々なカスタマイズがされています。

・近赤外領域

 近赤外は,可視領域と赤外領域の間に位置しています。波長にすると、780nm~2500 nmにあたります。その特徴として、多くの物質が,近赤外光をほとんど吸収しない事にあります。(少しは吸収するという事です。)それは、近赤外光はたいていの物質を透過することになります。更に近赤外光は,X線や紫外線などと違って,人体に照射されてもほとんど悪影響はありません。アプリケーションも多く、テレビやエアコンなどのリモコン、CDプレーヤーなどの、コンシューマ製品、光ファイバやワイヤレスデジタル通信などの光通信にも多く用いられています。当然光学フィルターも多くの製品に組み込まれています。

 製品紹介:ポリミドフィルター

・赤外領域

 赤外光は、可視光よりも波長が長く、電波より波長の短い電磁波になります。近赤外領域も踏まえて、波長では780nm~1000μmとなり、2500nm~4000nm(4μm)を中赤外、4μm~1000μmを遠赤外といいます。中赤外は物質固有の吸収スペクトルが現れるため、化学物質の同定に用いられるほか、石英管ヒーターなどにも使用されています。遠赤外線は、ガラスの透過限界波長よりも長い波長を持ちます。また、一番のアプリケーションとしては、 対象物に熱を与える、熱線の効果を利用した製品です。暖房や調理器具などとして利用されています。その他、サーモグラフィー用途や、赤外線天文学の分野でも使用されます。
この赤外領域においても、様々な光学フィルターが使われております。